「忙しいのに何考えてるんだ」

「代わりの新人を育て上げるまで辞めさせない」

「辞めたら損害賠償請求する」

……こんなふうに言われて会社を辞めさせてもらえないというお悩みを抱えているかたはいないでしょうか。

「退職届を出そうとすると、『今人手不足で苦しいから……』とやんわりと退職届を受け取り拒否され、長時間労働から解放されない……」というお悩みを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。

今回の記事では、こういったときにはどうすれば退職ができるのかをまとめました。

「2週間前の意思表示」で退職できる

労働者には退職の自由がある

そもそも、憲法上、労働者には退職の自由が保障されています。

【日本国憲法】

第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

第22条① 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

これを受けて、民法は、期間の定めのない労働契約で働く人*1は、「いつでも」退職の申し入れをすることができるということを定めました。それと同時に、この場合には「2週間の経過」によって労働契約が終了すると定めていますので、退職という効果は申入れをしてから2週間後に発生することになります。*2

【民法】

第627条① 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

少しごちゃっとした感じがしますが、要するに、「少なくとも2週間前に退職の意思表示をすれば、会社を辞めることができる。」ということが定められているのです。

*1:今回の記事は、労働契約に「期間の定め」がない人が退職する場合を念頭においてまとめています。いわゆる有期契約の方が期間途中に退職したいと考えた場合については、別の考慮を必要としますのでご留意ください。

*2:いわゆる完全月給制や年俸制(遅刻・欠勤による賃金の控除がない働き方)が適用されている方については、退職の意思表示をする時期について別の定めがおかれており、ここで述べたとおりにはなりませんのでご留意ください(民法627条2項・3項)。

2週間前に意思表示をしている限り、法的責任は問われない

重要なのは、法律上退職の意思表示は「いつでも」することができると定められているということ。

この「いつでも」というのは、「どのような理由があっても」という意味だと考えられています。つまり、退職したいと考えた理由が労働者の個人的な利益のためであっても全く構わないということです。

そして、法律でこのように定められている以上、働く人が2週間前までに退職の意思表示をして退職している限り、そのことが違法になることはないということになります。

つまり、「お前が辞めると、人手不足になって仕事が回らずに損害が出るから、損害賠償する。」とか、「引継ぎの時間が取れなければ事業が頓挫して損害が出るから、損害賠償する。」とかといわれていたとしても、実際にそのような損害賠償責任を負うことはないのですから、恐れる必要はないのです。

就業規則に別の定めがあっても無効です

ところで、会社によっては、就業規則や労働条件通知書に「退職しようとする職員は、あらかじめ会社の許可を得て時期の指定を受けなければならない。」とか、「退職するときには、2か月前までにその旨を会社に申し出なければならない」といった定めが置かれている場合があるようです。

こういった場合、会社の許可を得なければ、あるいは2か月前までに申し出をしなければ、会社を辞めることができないのでしょうか?

結論から言うと、このような定めは法律的には効果を持ちません。先にあげた民法の定めがある以上、就業規則などに特別の定めをおくことによって退職の自由を制限することは許されないと考えているからです。

ですから、「うちの会社だと、やめるときには2か月前までに言ってもらわないといけないんだよね」などと言われても気にすることはないのです。どうどうと、2週間以上先の日を指定し、その日をもって退職することを伝えましょう。

退職届を受取拒否されるときは、配達証明付内容証明郵便を使おう

退職届は手紙で構わない

もっとも、現実には「2週間前までに退職届を出せばいいことはわかったよ。だけど出そうとしても会社に退職届を受け取ってもらえないんだ……」と悩んでいる方も多いかもしれません。

おどかしつけて退職届を出させないブラックな会社のほかにも、「退職届を受け取る立場の上司も実際のところ仕事が大変そうなので、『頼むよ』と言われると気持ちがくじけてしまうんです……」という方もいらっしゃるでしょう。

そんな時には、手紙で退職届を送付してしまいましょう。ただし、普通郵便で退職届を送付すると、ちゃんとその手紙が届いたのかとか、いつ届いたのかとか、その内容がどういうものだったのかとかといったことについてはっきりとした証拠が残りませんので、内容証明郵便に配達証明をつけて送付するようにしてください。

この場合、内容証明郵便がいつ届くかわかりません。ですので、退職日については「この書面が届いてから2週間が経過した日をもって退職します。」といった書き方をしておくとより確実でしょう。

「退職願」ではなく「退職届」を出そう

なお、退職届を「退職願」というタイトルにしたり、退職日について「○月○日をもって退職したく願い出ます。」という書き方をすると、「退職する」という意思を伝えているのか、「退職に向けて話し合いたい」という意思を伝えているのかが少しあいまいになってしまいます。

私としては、形式的な言葉遣いにかかわらず退職の意思がはっきりと表れていれば退職の意思表示として認められるだろうとは考えています。もっとも、あとあとのトラブルを避けるためには、「退職届」というタイトルを使い、「○月○日をもって退職します。」という書き方をしたほうが紛れがなくていいでしょう。

退職の意思表示をしてから退職日までの過ごし方

退職日までは労働契約は続いている

無事に退職届を提出できたら、あとは退職日を待つばかりとなります。

ここで注意をしてほしいのは、退職日が来るまでは労働契約は継続しているということ。したがって、この期間に業務命令を受けたのにそれに従わないとか、あるいは無断で欠勤するということをすると、そのことを理由として退職日前に懲戒処分を受けたり、あるいは退職金が減額・不支給とされたりすることもあり得ます。

気を付けてほしいのは、会社は退職届を出したあなたのことを快く思っていない可能性があるということ。不合理な嫌がらせをするために、あなたのミスを虎視眈々と探している可能性もあります。最後の最後まで足元をすくわれないようにすることが必要です。

有給休暇が残っていれば取得できる

もし、退職日までの有給休暇が残っているという場合には、有給休暇を取得して退職日までの期間を心穏やかに過ごすことを考えてはどうでしょうか。

一般に、労働者の有給休暇の申請に対して、会社側は一定の条件のもと「その日は困るから、この先の○月○日に有給休暇を取得してくれ」と命じることができるのですが(これを「時季変更権」といいます)、退職届を出して退職日が決まった以上、それより先の日を別の日として指定することはできません*3

*3:行政の実務ですが、退職ではなく解雇の日が決まっている場合について「当該労働者の解雇予定日を超えての時季変更は行えないものと解する」という通達があります(昭和49年1月11日基収5554)。

有給休暇を取得することは労働者の権利ですし、出勤しなければ先に述べたようなトラブルで足元をすくわれる心配もまずありません。

この場合、先に述べた配達証明付きの内容証明郵便の本文に、「なお、○月○日まで有給休暇を取得します。」と書いておくとか、あるいはそもそも退職日について「残っている有給休暇をすべて取得しおえた日をもって退職します。」と書いておくとかといったことを考えるとよいですね。

使用者の方へ

使用者の方でこの記事を読まれている方もいるかもしれません。

使用者としては、働いている人にやめられては困るという事情があると思います。

しかし、先に述べたように、労働者には退職の自由があり、使用者がこれを制限することはできません。また、退職日までの有給休暇の取得を求められた場合、使用者はこれを拒否することもできません。

ですから、やめられて困るという事情があるからと言って、労働者に対して敵対的に対応したり、あるいは退職の申し出をごまかして先延ばしにしたりすると、かえって話合いの余地もなく退職届の送付を受けてしまい、仕事の引継ぎも指示できないということになりかねないのです。

こういった事態を避けるためには、退職の申し出を受けたときには、労働者の申し出た退職日ころの退職を前提としたうえで若干の退職日の調整を頼むとか、あるいは有給休暇の買取とか、有給休暇日数分だけ退職日を後ろにずらすとかといった形をとって労働者に不利益がないようにしつつ、退職日まで出勤して引継ぎ業務をしてもらうよう頼むことで調整を図ることを検討されてはどうでしょうか。

退職後の嫌がらせには断固対応しよう

会社によっては、退職日が過ぎた後も退職を認めず、平然と出勤を指示してきたり、あるいは離職票を出さなかったり、健康保険の脱退手続をとらなかったり、退職金を支払わなかったりという嫌がらせをしてくるかもしれません。

こういった嫌がらせはすべて違法なものですから、絶対に許してはなりません。労基署やハローワーク、健康保険組合に対して会社に対する指導をもとめてもよいでしょう。それでも改まらないときは、会社に対して退職金や損害賠償の支払いを求めて法的手続きをとるということも考えられます。

違法不当な嫌がらせには、断固として対応しましょう。

困ったときには弁護士にご相談ください

ご不明な点があるかた、あるいは「内容は分かったけど、自分で内容証明を出して会社と対峙するのはちょっと怖い……」というかた。

そのようなときにこそ、弁護士がお力になります。お気軽にご相談ください。

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