岐阜県瑞穂市の弁護士の仲松大樹です。
今日も雑談寄りのお話です。

残業代請求の事件では、タイムカードその他の資料に基づいて日々の労働時間を特定し、いわゆる残業や深夜労働、休日労働がどれだけあったのかということを計算する必要があります。これを年単位の期間にわたって人力で計算するのは(多分)現実的ではないので、表計算ソフト(おおむねエクセル)を使って計算し、その計算過程(のうち、重要な部分)を表形式で確認可能な状態にして、これをプリントしたものを裁判所に提出する、という方法が一般的になっています(令和8年には、少なくとも弁護士が代理する裁判に関しては、紙媒体ではなく電子データをやり取りする形になりますが)。

これに使う表計算ソフト(の書式)ですが、現在においては、全国的に事実上の標準化が進んでいます(多分。根拠は私の感覚でしかないです。違ったらごめんなさい💦)。というのは、京都第一法律事務所の渡辺輝人先生が作成されている「給与第一」という(エクセルの)書式と、京都地裁にみえた渡邊毅裕裁判官が作成した(同じくエクセルの)「きょうとソフト」という書式が使いやすいということで、多くの弁護士や裁判所が残業代請求事件でこれらを使うようになった(なっている)からです。

渡辺先生の著書によれば、「給与第一」が最初に公開されたのは平成22年2月、「きょうとソフト」の開発は平成28年とのこと。個人的には、「給与第一」の公開はもっと前、「きょうとソフト」の公開はつい最近という感覚だったのですが、どうも感覚はあてになりませんね。

ちなみに、私が司法修習生になったのが平成21年11月で、弁護士登録したのが平成22年の12月。ちょうど私が司法修習生であったころに、「給与第一」が発表されたことになります。

ここまでが例によって前置きで(話が長い、とよく言われるのですが、なかなか直りません……)、今日はこの「給与第一」発表後間もない、私が弁護士登録したころの思い出です。

弁護士登録し働き始めて間もなく、事務所の先輩弁護士……というより弁護士としての師匠にあたる弁護士と一緒に、残業代請求事件を引き受けることになりました。それで、その先生から、とりあえず大量にある労働時間の記録をもとに、未払いの残業代がいくらあるのか計算するという作業をするように言われたわけです。その事件は、私にとっての残業代請求事件第1号ではあるのですが、とりあえず司法修習生であったころに仕入れた知識で「『給与第一』という便利なものがあるらしい」くらいのことはありましたので、「じゃあ、ソフトに打ち込んで計算してみます」と答えました。

そうしたところ、「自動で計算をしてくれるソフトがあるのは知っているけれど、そういうソフトに頼ると、どういった計算がされているのかがブラックボックスになるからよくない。エクセルは使っていいけど、自分で計算過程を考えて計算しなさい」との指導が……

変な誤解を生まないように補足するのですが、これは確かにそのとおりなのです。その後ずいぶんたくさん残業代請求事件を手がけましたが、私自身の肌感覚として、例えば固定残業代制度のような仕組みについて、その制度のもとで具体的に残業代を計算する場合、数字がどういうふうに動いていくのか、ということが感覚的にわかっていると、制度の有効・無効について検討する際に非常にやりやすい、というところがあります。ほかの論点・争点についても同様で、「この部分について使用者の/労働者の主張が認められた場合、全体の構造にどう影響するのだろう」ということを考えるためには、やはり一通りの計算過程が感覚的に身についているほうがいい。

まあ、そういうこと以前の問題として、まだろくに仕事も覚えていない新人弁護士が、他の人が作ったソフトをチョイチョイといじるだけでいっちょ上がり、みたいな仕事をしようとしているのを見て危機感を覚えたということだったのかもしれません。その危惧もやっぱり正しいな、と思いますね……。

いずれにせよ、そういった指導を受けましたので、では仕方ないからエクセルに取り組んでみよう、となったわけです。……が、この当時私はまともにエクセルを触ったこともなく、残業代関係の仕組みについても全く不案内で、ずいぶんと苦労を重ねることになります(「面倒だから、ばれないようにこっそり『給与第一』を使おう」と思わなかったあたり、ちょっとほめてほしい気もしますが💦)。

……本当はこの辺りのお話を書きたかったのですが、長くなってきましたので、いったん記事を分けます。続きはまた今度。

(仲松大樹)

※ 冒頭のイメージ画像は、手持ちの画像にしっくりくるものがなかったので、AI(chatGPT5.1)に適当に指示して作ってもらったものです。すごい時代になりましたね。正にブラックボックスから出てきた成果物ではありますが……。